松久淳 猫なんて飼うんじゃなかった

<目次>
00「ご案内」
01「猫が来る」
02「猫はタフでなければ生きていけない」
03「猫を飼う奴なんて」
04「猫は気にしない」
05「長生きの秘訣」
06「猫の小説デビュー」
07「吠える猫」
08「猫をかぶっていないときがある」
09「猫の帰還」
10「猫の飼い方」
11「好奇心に猫は落ちる」
12「マーロウ救出作戦」
13「YouTubeデビュー」
14「ミリオンを達成する猫」
15「猫の話をそのうちに」
16「老い始めた猫」
17「ボケていた」
18「もういっかいマーロウ」
19「猫はただの猫」
20「化け猫疑惑」
21「赤ちゃん返り」
22「世界でいちばん好きな猫」
23「猫なんて飼うんじゃなかった」
18「もういっかいマーロウ」
マーロウが19歳で、ボケが最高潮だった2015年。私はウェブの文芸誌で「もういっかい彼女」という小説の連載を始めた。
ある老作家が、若いときに愛した女のことを語る。彼と彼女、そして彼の愛猫「ニャニャコ」は、いつも一緒だった。そしてこのニャニャコというのは、かなりの割合で、モデルはマーロウだ。
もともと私が最初につけたタイトルが「猫とポルノとバックギャモン」だったくらいなので、ふてぶてしくのったり寝てばかりのニャニャコは、重要な役割を果たしてくれる。
連載を始めるときに、担当編集者の石川くんは申し訳なさそうに「予算が少ないもので、扉にイラストとかを入れられないんです」と言った。文芸誌を見たこ
とがある人は少ないと思うが、だいたい連載時にはその冒頭のページ(扉)に、タイトルと著者名、そしてイメージイラストが1点添えられているパターンが多
い。
しかしそれができない。「もういっかい彼女 松久淳 第1回」というように、文字だけになってしまう。ならばと私は逆提案した。それだとあまりに寂し
い、私の猫の写真ならば無料で使っていいので、タイトルまわりにその写真を「ニャニャコ」というていであしらってくれないかと。
結果、8回の連載で、マーロウの8枚の写真が、その扉を飾ることになったのだ。まあこの段階では(そのウェブ文芸誌には失礼だが)、ほとんど見てる人もいないだろうと思っての、謙虚な公私混同だった。
ところが、その連載が終わって、まとめた単行本を出そうという段階になって、石川くんから思わぬ話が舞い込んできた。
「単行本自体の表紙も、マーちゃんでいきましょう!」
これだけ聞くと、著者である私とマーロウへの愛が溢れているように聞こえるが、実際の理由はそうではなかった。
「それでですね、表紙の猫は、あのYouTubeで100万回再生の猫だと謳わせてください」
本が売れなくなった出版不況の昨今、藁にもすがる話題作りのためだった。
そして実際に、「モデルは動画で話題のあの猫!」な告知がされ、さらに9枚の写真が表紙候補となったのだが、それでミニ写真集を作ってしまい、全国の書
店員さんなどの投票によって、実際の表紙を決めるという企画まで催されてしまった。そしてその話題は、ペット専門のサイトなどに積極的にニュースとして発
信。(この候補写真の数々は、私のホームページで見ることができる)
お金がない苦肉の策だったマーロウの写真が、骨までしゃぶるがごとく、思う存分使われまくり。当然、写真使用料はなく、さらに石川くんは「もういっかい彼女」の題字を著者自ら書くようにと指令してきた。つまり表紙制作費、0円。
投票ではなぜか、マーロウがその可愛い瞳を向けているものではなく、窓際で前足をだらんと垂らしてぐっすり眠ってる写真が選ばれた。
そしてマーロウが20歳になった2016年5月、「もういっかい彼女」は発売された。あちこちの書店にマーロウ。ネットで本を検索するとマーロウ。渋谷
TSUTAYAさんでベストテン入りしてくれて、その話題が「王様のブランチ」で紹介されたのだが、つまり全国放送地上波にマーロウ。
20歳という大台に突入し、相変わらずボケによる唸り声はひどい。そんなときに表紙デビュー。これはもう、死に水を取るような行為だなと私は思った。縁起でもないが、この表紙はある意味、「遺影」だなと思ったりもした。
あらかじめ申し上げておくと、これを書いているのはそれからちょうど1年後。21歳になったマーロウ、いま起きてうんこしに行きました。死んでません。
そして「もういっかい彼女」の次に、私は「猫の話をそのうちに」という小説を書いた。主人公は売れないミュージシャン。彼は狭いアパートで猫を飼っている。
ディオンヌという名の雌猫だが、猫じゃらしなどで遊ぶには遊ぶが、すぐに飽きてしまうシーンや、流し台にとんと飛び乗って蛇口から直接水を飲むシーンなどは、もちろんマーロウがお手本になっている。
悲しいことがあったとき、ディオンヌがそこに佇んでいてくれるというシーンも、実際に私が経験したことだ。私が悲しんでいるとマーロウにはそれがわかり、微妙な近さでただそこにいてくれる。
そして、主人公は自分にしか作れない歌を作ろうと決意して、10曲を書き上げる。そのうちの1曲が、もともと私のブログのタイトルだった、「猫の話をそのうちに」だ。
マーロウ、これからもますます、私は君を、小説やエッセイのネタに使わせてもらうよ。
marlowe age 18




*このページは、個人的にお伝えした方のみがご覧になっています。もし検索などで偶然見つけた方は、読んでいただくのはまったくかまいませんが(ぜひ、読んでください)、他の方に伝えないでいただけると、ひじょうに嬉しいです。
*松久淳の、2018年6月に書き上げた、飼い猫マーロウについてのエッセイです。
*全23話。各ページに写真がありますが(デジカメ以前でまったくないページもあります)、話の内容と関係なく、話数=マーロウの年齢の写真になっています。
*各話の目次、エッセイ、写真、ご説明の順に載っています。あえてノーデザインのベタ打ちにしています。読みづらかったらすいません。
*出版、ウェブ関係、その他の方で本稿にご興味あるかたはご一報ください。