松久淳 猫なんて飼うんじゃなかった



<目次>
00「ご案内
01「猫が来る
02「猫はタフでなければ生きていけない
03「猫を飼う奴なんて
04「猫は気にしない
05「長生きの秘訣
06「猫の小説デビュー
07「吠える猫
08「猫をかぶっていないときがある
09「猫の帰還
10「猫の飼い方
11「好奇心に猫は落ちる
12「マーロウ救出作戦
13「YouTubeデビュー
14「ミリオンを達成する猫
15「猫の話をそのうちに
16「老い始めた猫
17「ボケていた
18「もういっかいマーロウ
19「猫はただの猫
20「化け猫疑惑
21「赤ちゃん返り
22「世界でいちばん好きな猫
23「猫なんて飼うんじゃなかった

03「猫を飼う奴なんて」

 拙著に「走る奴なんて馬鹿だと思ってた」というのがあるが(さりげない宣伝)、猫に関しては、どこか「猫を飼う奴なんて面倒だと思ってた」という感覚があった。いや、飼育が面倒なのではなく、飼い主のメンタリティが面倒くさそうだなという、完全な偏見だ。
 ナチュラル志向、ウッディな家具に観葉直物、リネンの服に、こだわりの紅茶。白髪混じりの三つ編み。エンヤを聴きながら、エコロジーを語るおばさん。その傍らに猫。
 猫って自由じゃね? 俺にもそういう人とか世間に左右されないっていうかさ、我が道を行くみたいなところがあるからさ、なんつうか、パートナーとして猫って、良くね? みたいなパッパラパーな若者。その傍らに猫。
 猫は「家族」であり、「飼う」とか、そもそも「ペット」って呼ぶこと自体が信じられない。共に暮らす以上、彼や彼女の人生に責任を持たなくちゃいけない。と、ご自分の主義主張はどうぞご自由にだが、それを他人にまで強要するお近づきになりたくないタイプ。その傍らに猫。
 顔を見せずに淡々と世界征服を指令する、悪の組織の首領。その手が毛づくろいしているのは、白いペルシャ猫。
 最後のが何かわからない方は、007の映画を最初から確認していただきたい。
 まあそれにしても、私の偏見もひどいもので、気を悪くした方がいたかもしれないが、その後、私が20年以上猫と暮らしてるという事実から、すっかり改心 してることをお断りしておきたい。いや、やっぱ猫に余計な付加価値を勝手に与える人はいまでも苦手かな。猫はただ猫として、可愛い。それだけだ。
 マーロウはやって来たときから、可愛く、そして子猫らしくやんちゃだった。
 小さく軽いので下の階に響くほどの音こそ立てないが、狭いアパートの部屋の隅から隅までを全力疾走。床に何か落ちてれば、アイスホッケー選手のごとく、華麗にさばいてラックやベッドの下にゴール。
 猫あるあるだと思うが、以来、床だけでなく、テーブルでもどこでも、猫が転がせそうな小物は全部しまうようになった。おかげさまでの整理整頓癖。とくに 飲み物や食べ物は、マーロウがベロペロ舐めてしまわないよう、飲んだそばから食べたそばから、流しでウォッシュ&収納。強制的に几帳面にさせられる。
 日中のやんちゃっぷりは可愛いが、夜はつらい。マーロウはなかなか寝てくれず、私が電気を消し目を閉じても、あっちでガタガタ、こっちでパタパタ、つい にはゴロゴロ、あ、何か見つけて転がしやがった。そのたびに起き上がり、マーロウが触れそうなものを片付けて、また布団に入る。しかし、敵はそんな私の一 枚も二枚も上を行く。
 寝れねー! 寝られないよマーちゃん(と呼ぶことも多くなった)。
 そんなわけで私が編み出したのは、「日中とにかく疲れさせる作戦」。
 ひたすら猫じゃらしを振りジャンプ&ラン。文字だけで説明するとヒステリックな方には咎められそうだが、マーロウをベッドにポーンと放り投げ、着地& ダッシュ(犬が投げた棒を追いかけて戻ってくるやつの、本人バージョン)。と、とにかく起きてるときは、仕事しながらでも食事をしながらでも、片手でマー ロウのエクササイズをできるかぎり遂行したのだった。
 しかし、そこまでやっても、寝てくれない。でも、「ああ、もう!」と思いながらなんとか寝つき、朝目が覚めたときに私の顔の真横にまん丸になって眠っているマーロウの姿を見てしまうと、もう許すしかない。
 ああ、マニャ(と呼ぶこともしばしば)、超可愛ええ! なでなで。かぷっ。あ、指噛まれた。お休みをお邪魔してすいません。って、なんでこっちは気を使わなくちゃいかんのだ。
 なんせそんなアクティブ&甘えんぼ&自分勝手な猫なので、「日中、猫は一人でもごろごろ寝てるものだ」と何度聞かされても、出かけてる間のことが気になってしょうがない。
 まず、出かけるときにも玄関先にとことこついてくるので、そのまま外に飛び出してしまわぬよう、丸めた靴下を部屋の向こうに投げるのが日課になった。
 靴下ポーン、マーロウそちらへダッシュ、その間に外に出てドアを閉める。
 最初のうちは、それから数秒後、戻ってきたマーロウが、私がいなくなったドアのほうに向かって、悲しげに「みー」と小さく鳴いてる声が聞こえるだけで、後ろ髪を何万本も引かれた気になった。
 心を鬼にして出勤した後でも、どうにも気になってしょうがなく、自分の部屋に電話。留守番電話になると、「おーい、マーちゃん、聞こえるー? 寂しくない? 早く帰るからね、いい子にしててねー!」。
 事情を知らない人が見たら、まあまあ、気持ち悪かったことだろう。

marlowe age 3 (写真なし)


*このページは、個人的にお伝えした方のみがご覧になっています。もし検索などで偶然見つけた方は、読んでいただくのはまったくかまいませんが(ぜひ、読んでください)、他の方に伝えないでいただけると、ひじょうに嬉しいです。

松久淳の、2018年6月に書き上げた、飼い猫マーロウについてのエッセイです。

*全23話。各ページに写真がありますが(デジカメ以前でまったくないページもあります)、話の内容と関係なく、話数=マーロウの年齢の写真になっています。

*各話の目次、エッセイ、写真、ご説明の順に載っています。あえてノーデザインのベタ打ちにしています。読みづらかったらすいません。

*出版、ウェブ関係、その他の方で本稿にご興味あるかたはご一報ください。