松久淳 猫なんて飼うんじゃなかった

<目次>
00「ご案内」
01「猫が来る」
02「猫はタフでなければ生きていけない」
03「猫を飼う奴なんて」
04「猫は気にしない」
05「長生きの秘訣」
06「猫の小説デビュー」
07「吠える猫」
08「猫をかぶっていないときがある」
09「猫の帰還」
10「猫の飼い方」
11「好奇心に猫は落ちる」
12「マーロウ救出作戦」
13「YouTubeデビュー」
14「ミリオンを達成する猫」
15「猫の話をそのうちに」
16「老い始めた猫」
17「ボケていた」
18「もういっかいマーロウ」
19「猫はただの猫」
20「化け猫疑惑」
21「赤ちゃん返り」
22「世界でいちばん好きな猫」
23「猫なんて飼うんじゃなかった」
09「猫の帰還」
ある雑誌で、かねてから公私ともにお世話になっていたリリー・フランキーさんと、その日が初対面の歌人の枡野浩一さんと3人で座談会をやったことがある。テーマは「悪女について」。
そしてこのときの写真撮影で、私たちはそれぞれ、動物プロから借りてきたというペルシャ猫を膝の上に乗せさせられた。悪女=猫。まあ安直な思いつきと思ったが、びっくりしたのはその猫のギャラが、我々のギャラよりも高かったことだった。
すぐに「うちのマーロウも稼げるんじゃないか?」といやらしい発想をしたが、あの人嫌いの猫にそんな芸当ができるとはとうてい思えなかった。
ただ、ときどき雑誌から猫についてのエッセイを頼まれたり、取材を受けることもあったから、トイレ砂代くらいは間接的に稼いでくれてると言えるかもしれない。いや、そこまでではないか。
前にマーロウの「鍵隠し騒動」を「四月ばーか」という小説の1シーンに使ったという話を書いたが、次に猫のことをフィクションの文章にしたのは、「猫の帰還」というタイトルのものだった。
これは大泉洋さんとの対談集「夢の中まで語りたい」に収録され、その文章に合わせた主人公のカメラマン役を、大泉さんが演じた写真も合わせて掲載されている。
そして後に、「どうでもいい歌」という小説でこの話を、カメラマンが作った劇中劇という形で再録もしている。
話は男のモノローグで進む。オス猫と2人で暮らしている男。とても可愛がっているが、猫は彼以外の人になつかず、おのずとずっと面倒を見なくてはならな
いために、生活がかなり制限されてしまっている。あるとき、些細なことから、彼は猫へ怒りをぶつけてしまう。そして、勝手にしろとばかりに、ベランダの
サッシを開ける。
一部、抜粋してみる。
君は僕といることだけが、すべてになった。
僕は君が大好きだから、それでいいと思っていた。
でも、時が経つと僕は違うことも考えるようになった。
君のおかげで、僕は旅行どころか一日でも留守にすることができない。ゆっくり眠ることもできない。人に会うこともできない。仕事も制限される。あらゆる行動が君を前提に考えなくちゃならなくなった。
僕はだんだん、疲れてきていた。
君を好きな気持ちは変わらない。でも、だんだん君のことを疎ましいと思ってきていたことも、事実だった。
ある日、僕は些細なことで君に怒ってしまった。
なんのことはない、じゃれてきたときに僕の脛を爪で引っ掻いてしまっただけだ。
でも僕はそのとき、思い切り君を蹴ってしまった。君を蹴るつもりだったんじゃない、痛くて足を動かしたら、そこに君がいたんだという、言い訳まで自分の中でこしらえていた。
そして僕は、ベランダのサッシを開けた。
猫の話にはなっているが、読む人によっては、小さい子供を育てている親の悩みと葛藤の話にも見えてくるようにしたつもりだ。
これを書くきっかけは、いくつかある。まず、まだマーロウが2歳のころ、マーロウがベランダからいなくなってしまい、後日再会、号泣する、という夢を見たことがあった。それが起きた後もやけにリアルな感触が残っていて、書き留めてずっと覚えていた。
そしてもうひとつは、正直に白状するが、私がマーロウに手を上げたことは、一度や二度ではないということだ。
もちろん、意味もなく虐待をしたことはない。ただ、しょっちゅう引っ掻かれたり噛まれたりするのだが、思わず我慢できず、反射的にパンと引っ叩いてしまったのだ。
まあ、これだけでも充分、愛猫家の皆さんの顰蹙を買うことは承知してる。
しかし、物書きが猫について語るとき、きれいごとだけ並べるわけにもいかないので、正直に書いておいた。気分を悪くされたら申し訳ない。
さて、「猫の帰還」の猫は、開けっ放しのサッシを見て、何を思い、どう行動したのか。それは「どうでもいい歌」という小説を読んでいただくとしよう。堂々と宣伝してみた。
ただひとつだけお断りしておくと、あたりまえだが、さすがに私は、本当に開けっ放しにしてマーロウが出て行くの待ったなんてことはさすがにない。
でも、ときどき考える。マーロウは外でやっていくだけの体力やスキルを持っていたのだろうか。
marlowe age 9


*このページは、個人的にお伝えした方のみがご覧になっています。もし検索などで偶然見つけた方は、読んでいただくのはまったくかまいませんが(ぜひ、読んでください)、他の方に伝えないでいただけると、ひじょうに嬉しいです。
*松久淳の、2018年6月に書き上げた、飼い猫マーロウについてのエッセイです。
*全23話。各ページに写真がありますが(デジカメ以前でまったくないページもあります)、話の内容と関係なく、話数=マーロウの年齢の写真になっています。
*各話の目次、エッセイ、写真、ご説明の順に載っています。あえてノーデザインのベタ打ちにしています。読みづらかったらすいません。
*出版、ウェブ関係、その他の方で本稿にご興味あるかたはご一報ください。