松久淳 猫なんて飼うんじゃなかった

<目次>
00「ご案内」
01「猫が来る」
02「猫はタフでなければ生きていけない」
03「猫を飼う奴なんて」
04「猫は気にしない」
05「長生きの秘訣」
06「猫の小説デビュー」
07「吠える猫」
08「猫をかぶっていないときがある」
09「猫の帰還」
10「猫の飼い方」
11「好奇心に猫は落ちる」
12「マーロウ救出作戦」
13「YouTubeデビュー」
14「ミリオンを達成する猫」
15「猫の話をそのうちに」
16「老い始めた猫」
17「ボケていた」
18「もういっかいマーロウ」
19「猫はただの猫」
20「化け猫疑惑」
21「赤ちゃん返り」
22「世界でいちばん好きな猫」
23「猫なんて飼うんじゃなかった」
13「YouTubeデビュー」
1996年生まれのマーロウの21年というのは、携帯電話とパソコンとネットとデジカメが、普及していった時期とほぼ重なる。
私もデジカメでマーロウの姿をスチール、動画ともによく撮っていて、それをパソコンに保存していた。そしてしっかり者の私は、仕事の原稿や書類などとともに、さらにCD-RやDVD-Rにバックアップも取っていた。
という一文をもう理解できない世代もいるだろう。この20年というのは記録メディアというものも、どんどん様変わりしていっているのだ。これを書いている2017年段階で一般的なUSBも、数年後には誰も使ってない可能性だってある。
そんなとき、私はマーロウの動画の、ある保存方法を思いついた。そう、YouTubeである。YouTubeにアップロードしてしまえば、一応、ずっと
保存した状態になるではないか(と書きつつ、YouTubeとネット環境も果たして数年後にどうなってるかわからないとも思っているのだが)。
かといって、「僕の猫ちゃんの動画を見て見て!」というテンションではない。当然、私の名前も明かさない。マーロウの名前も公表しない。そもそもどうするかわからないが、宣伝的なことはしない。もちろん、広告を入れて小銭を稼ごうとも思ってない。
たんに、タイトルだけをつけて、デジカメの録画モード(画質はいまいち)で撮ったマーロウを、順番にアップしていくだけだ。
2008年、マーロウが12歳のときに最初の動画をアップした。
マーロウの水飲み動画。このころ、小でも大でも、私が用を足してトイレから出てくると、待ち構えていたマーロウはトイレに駆け込み、便座の蓋の上に立ち、手洗い用の水をごくごくと飲むという、新鮮だがなんか不潔な気もしなくはない水分補給の習慣があった。
私はあるときデジカメを持って用を足し(もちろんその段階では録画ボタンを押していない)、トイレを出た瞬間からその様子を撮影した。流れる水を飲むのに夢中で、たまに自分の額あたりに水が落ちてきてるのだが、まったく気にしてないのがマーロウらしい。
その後も、これまで撮っていた分、アップし始めたので動画撮影癖がついて、新たに取り出した分を、続けざまにYouTubeにあげていった。
床にのたーっと静止して、たまに路上で見るパントマイムの人の「人間彫刻」みたいな動きをするマーロウ。布団に潜り込んで私が中に手を伸ばすために
「しゃあっ!」と爪と歯で侵入を防ぐマーロウ。前足と後ろ足をきれいに揃え、尻尾を巻きつけるお得意のポーズで、「お帰りなさいご主人様」感を出すマーロ
ウ。前に書いたが、何事か喋っていた後で、じっと何もいない壁のほうを見つめている、ちょっと怖いマーロウ。ぺろぺろ洗顔に陶酔するマーロウ。私のちょっ
かいを、尻尾だけであしらうマーロウ。ふかふかベッドを買ってあげたのに、届いたアマゾンの箱で寝るマーロウ。壁に頭を押し付けて、ものすごい形相で寝る
マーロウ。
そんな中で、私がいちばん気に入っているのは、マーロウがトリックアートに挑戦した動画だ。
動画が始まると、壁際でマーロウが優雅に立っている。すっと伸ばした足。すっと伸ばした猫背(矛盾した表現)。すっとこちらに向けた顔。古代エジプトの猫の女神バステトのような高貴ささえ漂わせている。
しかしカメラがくるっと動くと、それは前足と後ろ足を壁につけてごろんと横になっている姿を、真上から撮っていたものだった、というオチ。
いや〜、可愛いのなんの。親馬鹿。
このとき、他の方がアップしている猫動画を見て思ったのは、「みんな、画質がいいな」だった。ちゃんとしたビデオカメラで撮ってるのだろう。なんせこちらは一昔前のコンパクトサイズのデジカメの、数分しか撮れない動画モード。質がまったく違う。
親馬鹿気分は存分に味わっても、そんな低クオリティの動画だし、だからこそ当然、前述のように動画が目立つようなことは何もしてないので(目立ったら逆
に恥ずかしい)、「視聴回数」を見ると少ないのは12回とかそんなもの。たまに誰かが気に入って誰かに伝えたりしたのか(という書き方でわかるとおり、拡
散の仕組みがまったくわからない私)、2000回とかそういうのもあったが、まあその程度だった。基本は「自分用の保存」ということで、それで充分、と
思っていた。
と、思っていたのだが、あるとき異変が起きる。私のアップしたマーロウ動画のひとつが、急激に視聴回数が伸びている。そしてそれは何千回レベルから何万回へ、そして10万回20万回と、あっというまに急上昇していったのだ。
いったい何が起きているのか!?
marlowe age 13









*このページは、個人的にお伝えした方のみがご覧になっています。もし検索などで偶然見つけた方は、読んでいただくのはまったくかまいませんが(ぜひ、読んでください)、他の方に伝えないでいただけると、ひじょうに嬉しいです。
*松久淳の、2018年6月に書き上げた、飼い猫マーロウについてのエッセイです。
*全23話。各ページに写真がありますが(デジカメ以前でまったくないページもあります)、話の内容と関係なく、話数=マーロウの年齢の写真になっています。
*各話の目次、エッセイ、写真、ご説明の順に載っています。あえてノーデザインのベタ打ちにしています。読みづらかったらすいません。
*出版、ウェブ関係、その他の方で本稿にご興味あるかたはご一報ください。