松久淳オフィシャルサイト週松(自前)表紙 > トップ > 週松プレイバック  HBS おかしい二人

 

*いまではたんなるインフォメーションコーナーになっている「HBS」。ですが週松創刊当初から、松久淳+田中渉の対談が頻繁に載っていました。対談といっても全部、私松久が勝手に創作したものなんですけどね(田中は週松に載ってから初めて読むという)。
週松創刊は2000年7月で、松久田中のデビュー作「天国の本屋」は2000年12月発売。対談は発売前の執筆時から行われ、やがて発売となり、2002年に思わぬヒットとなり、2004年に映画化されるまで、約40回続きました。
そのうち2回分は、「ヤング晩年」にも収録されています。

先に初期2000年ダイジェストを公表しましたが、ここでは一気に最後に飛んで、「天国の本屋」映画版用に書き下ろした対談原稿を2本公開いたします。

 

2011年8月8日再公開

 松久田中のおかしい二人●2004年のオフィシャル原稿2本

その38●映画が公開だね。 (04.6.5公開・映画「天国の本屋〜恋火」劇場パンフレット掲載原稿)

田中 私たちの作品がいよいよ映画になりました。もうひとつの「天国の本屋〜恋火」の誕生です。原作同様、いえいえそれ以上に、素敵な作品に仕上げてもらいました。これも書店さん、出版社さん、映画会社の皆さん、役者の皆さん、スタッフの皆さん、そして本を読んでいただいた方々のおかげです。心より感謝いたします。

松久 …………。

田中 この作品の見所はたくさんあります。しかしまだ映画を見ていない方のために明かすのは控えましょう。ただ、大切な人と劇場に行かれることをお勧めします。物語の途中、スクリーンの中で恋火という素敵な花火が打ち上がります。映画が終わったら、明かりがつくちょっと前に気づかれないようにそっとその人の顔を見てください。そのとき何が起こるか。それは嬉しすぎてとても言えません。

松久 …………。

田中 起きろよ。

松久 ……あ、終わった? 呼ばれてない舞台挨拶の練習。

田中 まあこれでばっちりだね。君もちゃんと練習しておけよ。

松久 あのさ、まず呼ばれてないうえに、だいたい原作者がそういうとこ行ったって、翌日のスポーツ新聞の写真は、ばっちり俳優さんたちだけにトリミングされてるから。

田中 じゃあ竹内さんと玉山さんの間からいっつも顔出しておこうか。

松久 そういう問題じゃねえよ。まあいいじゃん、原作者が映画の解説しなくても。本は作家のもの、映画は監督のものだろ。

田中 まあそれもそうだな。じゃあ観客としての感想にしよう。俺はやっぱり「あのピアノ曲」が演奏されるところが好きだね。すっごい美しいメロディーをあの人が、あの思いを胸に秘め、あんな場所で、あの人たちのために、奏でるんだね。今も思い出すだけで、もう、グッときて、ウッとなって、ジワーときて……。

松久 ♪ハッとしてGOODっときて……。

田中 ♪パッと芽生える恋だから〜、って歌わすなよ。君が好きなシーンってどこ?

松久 俺的には最初に健太が演奏終わったあとで、楽団員が「じゃあまた来週4時ということで」って言うと、マネージャーが「一応10分前に入って」ってところかな。

田中 ……ずいぶん地味なところを挙げるね。

松久 大事なシーンだよ。

田中 ……あとはやっぱりラストかな。まあクライマックスだから細かい説明はしないけどさ、香夏子の表情がふっと変わるんだよね。あそこはぐっときたなあ。

松久 ラストはいいよね。俺もユーミンの曲がかかるところは好きだな。

田中 「永遠が見える日」はいいよね。

松久 とくに「♪いつまでも〜祈るように〜目を閉じたら〜その瞬間〜」の間ね。

田中 なんでそんな限定するんだよ。そこまで歌うなら「♪永遠を見せて〜」まで歌いきれよ。

松久 いや、そこの部分はもう切れてるんだよね。

田中 切れてる? ……あ、さっきのオープニングのシーンも、そのユーミンの歌の部分も、両方とも「原作/松久淳+田中渉」のクレジットが写ってる間じゃねえか。

松久 わかっちゃった?

田中 わかっちゃったじゃねえよ。

松久 いや、原作の本ってどんな人が書いてるんだろうと思ったら自分の名前があったっていうあの感動ね。

田中 あのさ、もうちょっと真面目なコメントをだな……。

松久 誰よりも、最初は話題にもならなかった原作本を、気に入ってくださって世に広めてくださった書店さんに、心から感謝いたします。「天国の本屋」という本が、本屋さんからこうして映画にまで伝わったというこの奇跡、私たちは一生忘れることはないでしょう。

田中 なに突然きれいに締めてんだよ……。

 

その39●てんぽんブームをおさらいしておこうか。 (04.6.5公開・映画「天国の本屋〜恋火」オフィシャルサイト掲載原稿)

田中 そもそも「天国の本屋」って発売してから1年以上、なーんの反応も反響もなかったんだよね。

松久 君もやさぐれちゃって、いろんなところに「断裁上等!」とか「絶版参上!」とかスプレーで落書きしてたもんね。

田中 してないよ。それがあるとき、急に盛岡の書店さんからすごい数の注文が入って、てんぽん界は騒然となったんだよね。

松久 てんぽん界って、俺と君の2人だけなんだけどね。

田中 そうなんだけどね。それでその「さわや書店」の店長の伊藤さんがもうとんでもない……。

松久 大酒飲みなんだよね。

田中 それは後で知ることだし、いまの話に関係ないよ。

松久 ほんととんでもないすごい本屋さんだったよ。「すごくいい本だ」「これは本屋が売らなきゃいけない本だ」って、コーナー作ってポップで大プッシュしてくれただけじゃなくて、地元のラジオに出て薦めてくれたり、他の書店の人たちにも薦めてくれたり、出版の業界新聞でも薦めてくれたり、とにかくいろいろやってくれて。

田中 それで気づいたらその波が全国に・・・っていうことだったんだよね。

松久 でもちょっと笑っちゃったんだけど、伊藤店長、最初はこっそり売ってたんだって。

田中 こっそり?

松久 「すごくいい本なんで、最初は本当に本が好きな人だけにこっそり薦めて売ってたんです」だって。それはそれでいい話だけどね。目利きの書店員が上客だけに渡す本、それって名誉だろ?

田中 だよなあ。俺もむかし歌舞伎町の書店でこっそりカウンターの下から……。

松久 うるさいよ。でもやっぱり皆に広めようと思って、その後、いろいろやってくれたんだよ。でも泣きそうになっちゃった話があってさ。最初に電話したときってまだ話題になる前だったんだけど、「著者冥利に尽きます。本当にありがとうございました」ってお礼言ったら、伊藤店長、なんて言ったと思う?

田中 なに?

松久 「いえ、これからですよ」。

田中 (号泣)

松久 (号泣)

田中 (号泣しつつアボガドサラダに手をのばす)

松久 (号泣しつつおちょこに酒を注ぐ)

田中 それで本当に「これから」にしてくれたんだもんな。

松久 でも話題になって、俺たちにインタビューとかいっぱい来るだろうなあって思ってたら、みんな伊藤店長のとこに取材行っちゃったけどね。

田中 取材の人たちもものすごく正しい判断をしたね。

松久 まあね。「本屋を舞台にした本が、本屋さんの力で話題に」だもの。でもタイミングいいなあって思ったのが、その波が来る直前に「恋火」の発売が決まってたんだよね。それで1作目「天国の本屋」が話題になったのと、3作目「恋火」の発売がほぼ同じ時期になったと。

田中 まあ俺たちコンビの基本姿勢は、話題になろうがなるまいが、注文来る前から勝手に新作を書いておく、だからね。

松久 というのが、「天国の本屋〜恋火」の原作のほうの製作秘話。

田中 ちっとも秘密にしてないけどね。まあそんな偶然と幸運が重なった2つの作品が、こうしてひとつの映画になったというわけだね。

松久 というわけで次回「映画版製作秘話編」は、竹内さんと玉山さんの対談でお送りします。

田中 ない予定を勝手に言うなよ。