松久淳+田中渉/著 講談社/刊 定価1470円 2005年7月7日発売
お父さん、いつか私に、サーフィンを教えて。
八島千波、27歳。母が逝った夏、その浜辺で出会えないはずの人々に出会った。
(版元より) 舞台は、ハワイと日本。バツいち、キャリアウーマンの主人公が、幼い頃に死別した<父>を理解し、過去を知ることによって失いかけていた自分の姿を取り戻すという、普遍的な<愛>の物語です。
7つの短篇と1つの中篇が、クライマックスでひとつにつながるという“ミステリアスな要素”を含んだ構成と、時代の空気を充分に反映した人物描写、そしてもうひとつの主人公である<水>の力を描くことに挑んだ作品です。
ウォーターマンを知っているだろうか?
ロングボードの上に立ち、小さな波も壁のようなチューブも平然と乗りこなす。
ウォーターマンは海とともに生きている。
海にもっとも近い伝説のサーファーにして守人。
海を愛し、海を愛する人を愛する、父親のような存在。
海辺に住む子供たちはみんな憧れる。
いつかウォーターマンと呼ばれるような人間になりたいと思う。
ウォーターマンのことを「水」にたとえる人がいる。
水は形を持たない。
だから、どんな形をも受け入れ、みずからも形を変えていく。
北や南へと向かい、右や左へと流れ出し、天に昇り地に下る。
決まった方向などない。
静かに漂っていることもあれば、猛々しく雄々しく振舞うこともある。
水は幾億幾千の生命を生み出し、育てていく。
あらゆるものに力を与えるが、その力を誇示することはない。
そして、争わない。
やわらかく、スムーズに、すべてに応じる。
いつでも平然としている。
ウォーターマンとはそんな人だ。
<ラジオドラマOA> NHK-FM「青春アドベンチャー」 7月10日(月)~21日(金)( 月~金曜日、午後10:45~午後11:00) 出演:ささきいさお他
<初出> 長編(全6話)「Netz Online Novel」にて2004年5月1日より 短編(全6話)「FRaU」誌にて2004年5月11日売号より それぞれ隔月1年間連載 単行本化に際しては大幅に加筆修正してあります
第1話 人魚岩のおばば
毎日ボードでぷかぷかと浮いている巨体の「おばば」。新米ライフセーバーの僕は、同僚のキカから「おばば」の若き日の話を聞く。まだ戦争中だったころ、彼女にはケビンという恋人がいた。彼は海から生まれたような男だった。しかしある日、迷いこんだ戦闘機が、恋人たちの頭上へと飛んできた。そして……。
第2話 波と書
ジョーズに挑戦するというサーファーの恋人の思いを、わかりつつも納得できないでいる私。ある夜、海岸にヒトダマのような炎が見える。おそるおそる近づくと、そこにはイエスキリストのような風貌のイタリア人がいた。イエスと仲良くなったあとで私は驚く。彼が燃やしていたのは、半紙に漢字でしるした「書」だったのだ。
第3話 流れついた銀河
海洋学の教授マークの、研究助手であり恋人でもあった私。彼の死を知らされ数年ぶりにハワイにおもむき、彼のいない部屋で、変わり者だったマークのことを思い出す。饒舌な彼は貝殻の螺旋と銀河の螺旋についても教えてくれた。ふと気づくと、部屋のどこかから、遠い海の音がした。音の主を探してみると……。
第4話 やさしい水
秋になると、僕は毎年必ず娘と一緒に、山奥の神社を訪れる。ハワイの神官の娘だった妻は、この神社の水分(みくまり)で娘を授かり、そしてこの世から去った。馴染みの民宿で、見知らぬスーツ姿の男と相部屋になる。彼は日本各地の水を調べているという。そして彼は、ケースから「ある水」を取りだすのだった。
第5話 シャッター・アンド・ライド
私はジャックのサーフィンを見て会社を辞めた。高校生のころ、海の向こうで同い年の彼は彗星のようにデビューして、大きなサーフィンのコンテストで栄冠をさらっていた。しかし、この数年は表立ったニュースは耳にしていない。私はカメラを持ってハワイへと旅立った。ジャックの写真を撮るために。
第6話 波の上のメネフネ
高校を出てサーファーになるためにハワイへやって来た僕。しかし結果は無残なもので、親友のハロルドは慰めるためか、僕を彼の祖母の家へと連れていった。僕はそこで、子供のころ好きだったアイスキャンディの広告ポスターに再会する。そこに写っているのは、レジェンドと呼ばれた伝説のサーファー、レイ・アダムス。ハロルドの祖母は、いまは亡きレイが残した言葉を僕に告げるのだった。
第7話 ブラックバード
20年前のノースショアでその事件は起きた。大きな大会が行われる前日、暴風雨でクルーザーが座礁したというニュースが入る。大会に出場予定だった日本人サーファー、通称「ブラックバード」は一人、ロングボードに乗って救出へと向かう。翌朝、不明者は発見されたが、そこにブラックバードの姿はなかった。
第8話 千の波 (長編)
ホノルルの不動産会社に勤める八島千波は、ある日、ノースショアのある地域を大手リゾート会社が買い占めようとしているという情報を耳にする。調べてみるとそこには、それは千波が高校卒業まで育ち、いまは母の久美子が一人で食堂を開いているKОNAMI海岸も含まれていた。久しぶりにノースショアを訪れる千波。それは千波には予想もできなかった物語の始まりだった。
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